第137章 千里の道も一歩から<弐>
汐が宇髄邸で訓練を始めてから五日後。
「よし、もういいぞ。お前はとっとと次の柱の所へ行け」
「えっ、いいの?五日しかたってないけど」
汐がそう言うと、宇髄は目を逸らしながら言った。
「ああ、騒音アホ娘の相手はこれ以上してられねえからな」
「何ですって!?」
「バーカ、冗談だよ。この土地を5時間以上も動き回れる体力がありゃあ、文句はねえってことだよ」
「あ、あんた、あたしをからかったわね!?」
キーキーと喚く汐の頭を抑えながら、宇髄は言った。
「汐。お前なら大丈夫だと思うが、何かあったら周りの連中を遠慮なく頼れよ」
「どうしたのよ急に。気持ち悪いわね」
「別になんでもねえよ。ただの独り言だ」
「随分具体的な独り言ね」
汐は小さくため息を吐くと、まあいいわと荷造りを始めた。
「あ、もしも炭治郎が来たらあんまりいじめないでよ?あたしの、その、大切な人なんだから」
「へいへい」
汐の頼みに宇髄は生返事をすると、そのまま妻と共に汐を見送った。
「・・・・」
小さくなっていく汐の背中を見て、宇髄は大きく息をついた。
汐は目を見て人の感情を読み取るのが得意だ。
いくら忍びの訓練を受けて感情を表に出さないことができるとはいえ、いつ汐に気づかれるかと思うと気が気でなかった。
「天元様・・・」
そんな宇髄を、三人の妻たちは心配そうに見上げる。
「さあて、まだまだやることは山ほどある。雛鶴、まきを、須磨。行くぞ」
宇髄はそう言ってにっかりと笑い、妻たちは不安を抱えながらも微笑み返した。
その時だった。
「すみませーん!!」
遠くから元気な聞き覚えのある声が聞こえてきた。