第137章 千里の道も一歩から<弐>
場所は変わり、蝶屋敷では
(落ち着いて、大丈夫よ。姉さん、私を落ち着かせて)
しのぶは一人、仏壇の前で心の中でそう呟いた。
(感情の制御が出来ないのは未熟者・・・、未熟者です)
だが、いくら頭でわかっていても、顔はそれに反して怒りで歪んでいく。
それを押さえつけるように、しのぶは深く深く、息を吐いた。
すると、
「師範。お戻りでしたか」
しのぶの背後から、カナヲの声がした。今までよりはっきりとした彼女の声に、しのぶの心が跳ねた。
「私はこれから、風柱様の稽古に行って参ります」
「そう」
しのぶは振り返らないまま、淡々と答えた。
「師範の稽古は、岩柱様の後でよろしいですか?」
カナヲがそう言うと、しのぶは険しい表情のまま首を横に振った。
「私は今回の稽古には参加できません」
「えっ・・・?」
しのぶの思わぬ返答に、カナヲは表情を固まらせた。
「ど、どうして・・・」
「カナヲ、こっちへ」
狼狽えるカナヲに、しのぶは振り返ると手招きをした。
カナヲは素直にうなずき、しのぶの元へ近寄った。
「あの、あの・・・私・・・」
自分をまじまじと見つめるしのぶに、カナヲはもじもじしながらも口を開いた。
「もっと師範と、稽古したいです」
頬を染め、俯きながらも自分の想いを口にするカナヲに、しのぶは嬉しそうにほほ笑んだ。