第137章 千里の道も一歩から<弐>
柱稽古が始まってしばらく経ったある夜の事。
一つの影が、夜空を斬り裂く様に飛んでいく。
その先にある窓から見える部屋には、一人の女性が物憂げな顔で書物を読んでいる姿があった。
影はためらうことなく窓に近づき、その足を止めた。
「こんばんは、珠世さん」
落ち着いた声が響き、珠世は手を止めて窓の方を向いた。そこには首に紐のようなものを巻いた一羽の鴉が静かにたたずんでいた。
「物騒ですよ、夜に窓を開け放っておくのは。でも今日は、本当に月が美しい夜だ」
言葉を話す鴉を見て、珠世はそれが鬼殺隊の鴉だとすぐに理解した。
「初めまして。吾輩は産屋敷耀哉の使いの者です」
身分を明かした鴉に、珠世は小さく肩を震わせた。
産屋敷耀哉。鬼殺隊の現当主の名は珠世も勿論知っており、それは鬼である自分とは決して相いれないはずの存在。
それがなぜ、自分と接触してきたのか。珠世は不審気に目を細めながら言った。