第136章 千里の道も一歩から<壱>
すると
『あのよぅ。さっきからお前は俺に理由ばかり聞いているが、理由ってそんなに重要か?』
『・・・何?』
『俺も大して生きてねえから、でけぇことは言えねえ。だがこの世には、理由がないこと、必要ないことがいくらでもあるんだよ』
男の言葉に、少女は混乱しているのか視線をあちこちに泳がせた。
『まあ簡単に言っちまえば、お前を連れ出した理由なんざ特にねえよ。俺がしたいからそうしただけだ。俺はちまちま考えるのが好きじゃねえからな』
『そのようだな。でなければ、己の約束された地位を捨ててまで私を連れまわすなどの酔狂ができるわけない』
『なんだよ。わかってんじゃねえか』
男は小さく笑みを浮かべながらそう言った。
『そうだ。昨夜生まれた赤ん坊だが、名前が決まったようだ。皆大喜びで名を呼んでいた』
『当たり前だ。名前ってのは人が生まれて最初に貰う、一生物の贈り物だからな』
『・・・私には名がないが』
少女は少し残念そうな声色でそう言った。すると男は、驚いたように目を見開いて言った。
『あれ?俺、お前に名前つけてなかったっけ?』
『私を一度も読んでいないだろうに。年齢の割に頭の中はすでに耄碌していると見える』
少女の辛辣な言葉が男を穿つと、男は小さく『可愛げのねぇガキ』と呟いた。
『まあ、お前を拾ってからいろいろと忙しかったからな。って、言い訳にすらならねぇか。だが、俺だってお前につける名前くらい用意してるぜ』
『適当なものではないだろうな。名前とは、一生物なのだろう?』
少女は挑発的にそう言うと、男は心なしか嬉しそうに目を細めた。
『いいか。一度しか言わねえ。耳の穴かっぽじってよく聞けよ』
――お前の名前は・・・