第136章 千里の道も一歩から<壱>
「炭治郎が言ってたわ。『過ぎた時間はもう戻らない。下を見てしまえばきりがない。失っても、失っても生きていくしかないんだ』って。実際その通りだった。あたし達も今日まで、多くの物を失ったわ。でも、それと同じくらいに得たものもある。今の自分がここに居るのは、その失った過去があるからこそだと、あたしは思うわ」
義勇は目を見開いて汐を見た。深い青い瞳に自分の顔が映っている。
年下の少女とは思えないその雰囲気に、義勇は圧倒された。そして思い出した。
かつて、鬼と化した父親を斬ると決心した、あの時の事を。
「だから、その。うまく言えないけれど、あんまり気にすんじゃないわよ。あんたがそんなんだと、あたしも・・・」
「すまなかった」
「え?」
義勇の謝罪の言葉に、汐は面食らった。
「俺のせいで、お前達にいらぬ心配をさせてしまった。本当に申し訳ない」
「馬鹿ね、言葉が違うでしょ?こういう時は謝罪じゃなくて、別の言葉があるじゃない」
汐がそう言うと、義勇はきょとんとした表情で見つめた。"目"を見る限り、本当に分からないようだった。
その時、炭治郎がお盆に水を乗せて戻って来た。