第136章 千里の道も一歩から<壱>
「俺は特別なことは何もしていない」
「十分特別よ。あんたいい加減に、その後ろ向きの性格何とかしなさいよ」
「俺は後ろ向きじゃない」
「・・・鏡持ってきてあげようか?」
汐は相も変わらずつれない義勇に呆れながらも、思っていたことを口にした。
「でも、そう言う融通が利かないところ、錆兎にちょっと似てるかも」
「!?何故お前が錆兎を・・・」
義勇はそう言いかけて口を閉じた。汐も鱗滝の下で学んだ、いわば妹弟子のようなものだ。
彼から錆兎の事を聞いていてもおかしくない。
「この半分の羽織の柄は錆兎の物で、もう半分は俺の、姉の形見なんだ」
「お姉さんの?」
「ああ。俺の姉は、俺を守って殺された」
義勇はぽつりぽつりと、自分の過去を語りだした。姉を殺され、鱗滝と出会い、そして錆兎と出会った事。
話が進むにつれ、汐の胸もきしむように痛みだした。
「姉さんは本当にやさしかった。俺が眠れないときには、眠るまで傍にいて子守唄を歌ってくれた」
「へえ。義勇さんにもそんな時代があったのね」
「あの時の俺は、本当に小さく、無力だった。姉さんが鬼に襲われているのに、何もできなかった」
「そりゃそうよ。あたしだって、親友が鬼にさらわれたのに助けられなかった。時々夢に見ることもあるのよ」
でもね、と汐はつづけた。