第18章 鬼と人と<参>
汐は体をひねり、突っ込んできた人形をかわす。そして汐はあるものに狙いを定めた。
それは、鬼が振り回している裁ちばさみだ。だが、それを奪うには人形の猛攻を抜けて近づく必要がある。
その方法が一つだけ、彼女にはあった。
全集中・海の呼吸――
――伍ノ型 水泡包(すいほうづつみ)!!
汐が動いた瞬間、鬼の眼が見開かれた。先ほどまでそこにいたはずの人間の姿が見えない。
慌ててあちらこちらに視線を動かすも、その姿を捕らえることはできない。
否、汐はずっと鬼の前にいた。ただ、鬼の盲点に入る動きをしていたため、姿が見えなくなったように見せていたのだ。
そのせいで鬼は汐の接近を許し、汐はその隙をついて裁ちばさみを奪った。
鋏を奪われたことに気づいた鬼が、狼狽えながら全ての人形たちを終結させる。その瞬間を、彼女は待っていた。
――全集中・海の呼吸――
――肆ノ型 |勇魚(いさな)昇り!!
汐は鉢巻きを外し裁ちばさみに瞬時に結び付けると、鬼の下側へ滑り込む。そして渾身の力を込めて真上に鋏を突き上げるようにして投げた。
血しぶきをあげながら、鋏は鬼の体を脳天まで貫く。それに合わせて汐も上側へ移動し裁ちばさみを受け止めると、今度は下側に向かって投げつける。
――肆ノ型・改 勇魚(いさな)下り!!
再び下側へ回ったら再び上へと、まるでまつり縫いの様に鬼を縫い付けていく。しかも鉢巻きは切れることなく驚くべき長さまで伸びていく。
汐は思い出していたのだ。玄海の形見の鉢巻きは、水で濡れると伸縮作用を持つ特別製だったことを。
鬼は完全に縫い付けられ、離れた頸が再生力を利用してくっつく。その瞬間を、汐は見逃さなかった。