第18章 鬼と人と<参>
形が崩れた人形たちがドロドロに溶けたと思うと、鬼の下半身へと次々に集まっていく。そして鬼がその身をゆらりと起こした。
鬼の下半身には、肉色をした人間の顔がいくつもついていた。皆断末魔の苦悶の表情をした、非常におぞましいものだった。
そのあまりの醜悪さに、汐の前進の肌が粟立つ。
全容を現した鬼の手には、巨大な裁ちばさみが握られている。そして、狂気じみた笑みを浮かべながらその鋏を汐に向かって振り下ろした。
汐は寸前で後ろに飛び、その一撃を回避する。だが、間髪入れずに鬼は刃を横なぎに払った。
それを後ろ宙返りでかわすと、次の瞬間。
下半身にあった顔の一部が宙を飛び、人形の形に変わる。そしてその口からは銀色の何かが飛び出してきた。
とっさに頭を振ってよけると、それはよく磨かれた縫い針だった。そして瞬きをする間もなく、いつの間にかあたりは再び人形に囲まれていた。
(そうか、そうだったのか!こいつの血鬼術は【人形を操る能力】じゃない。【自分の体の一部を人形に変化させることができる能力】なんだ!だから、いくら人形を壊しても、本体が無事な限り人形はいくらでも増える!)
しかもどの人形にも人を殺める細工がしてあるらしく、針を吐くもの、腕が剃刀になっているものなど種類がある。
さらに厄介なことに、鬼は弱点である頸すらも切り離して移動することができる。これでは頸を斬ることができない。
(どうする?どうする・・・!?)
攻略法が分からず困惑する汐に、鬼は容赦ない攻撃を仕掛けてくる。針をよけ、剃刀をよけ、はさみを受け止める。
疲れ知らずの鬼とは違い、呼吸法で強化しているとはいえ汐は人間だ。いずれは疲労で動けなくなる。鬼はそれを狙っているようだ。
その狙いが的中したのか、汐の足は非常にももつれてしまい転んでしまう。それを好機と踏まえた鬼がはさみを振り下ろす。
しかしギリギリのところで汐はそれを回避するが、おいてあった水瓶に頭から突っ込んでしまった。
派手に音を立てて瓶が割れ、冷たい水が汐の全身を濡らす。水に強い隊服は無事だったが、玄海の形見である鉢巻きが水で濡れてしまった。
心なしか、頭が少し締め付けられる気がする。
だが、その刺激のせいだろうか。汐の頭の中にある考えが浮かんだ。バラバラの状態ではいくら攻撃しても頸は斬れない。なら
【強制的に体を一つにしてはどうだろうか】