第136章 千里の道も一歩から<壱>
義勇は汐と炭治郎に背を向けると、頬を手で押さえた。汐が打った右ほおではなく、左頬を。
(痛い・・・)
義勇は痛みを感じていた。汐に打たれた頬も痛むが、同じくらいに痛むのは心。
義勇の脳裏には、あの時錆兎に打たれた衝撃と痛みがはっきりと蘇っていた。
(何故、忘れていた?錆兔とのあのやり取り、大事なことだろう)
大切な親友が教えてくれた、大切な出来事。それをなぜ忘れていたのか。
いや、忘れていたわけではなかった。思い出したくなかった。涙が止まらなくなるから。思い出すと悲しすぎて 何も出来なくなったから。
(蔦子姉さん・・・、錆兎・・・未熟でごめん・・・)
義勇は、二人に背を向けたまま項垂れた。それからまるで石になったかのように、ピクリとも動かなくなってしまった。
(あれ・・・?)
汐は顔を引き攣らせながら、冷たい汗を流した。先ほど、自分が叩いた頬とは反対側の頬を押さえていたように見えた。
(もしかしてあたし、強く叩きすぎて、冨岡さんの頭馬鹿になっちゃった・・・?)
汐は青い顔で炭治郎と見つめた。炭治郎も、自分が酷いことを言ってしまったのではないかと表情を曇らせた。