第136章 千里の道も一歩から<壱>
しかし義勇の心の中には、決して消えないしこりがあった。
それは、自分を庇って死んだ姉の事。姉の代わりに自分が死ねばよかったのではないか。自分のせいで姉は死んだのではないか。
自分は、生きていていい人間なのか。
ある日、義勇はその想いを錆兎に打ち明けた。だが、錆兎から返ってきたのは、渾身の力の平手打ちだった。
頬が腫れ、口からは血があふれ出た。義勇は頬を抑えながら、錆兎の顔を見つめた。
『さ・・・、錆兎・・・』
『自分が死ねば良かったなんて、二度と言うなよ。もし言ったらお前とはそれまでだ。友達をやめる』
錆兎は義勇を見据えながらきっぱりと言い切った。
『翌日に祝言を挙げるはずだったお前の姉も、そんなことは承知の上で鬼からお前を隠して守っているんだ。他の誰でもない、お前が・・・お前の姉を冒涜するな』
錆兎の鋭い言葉が、義勇の胸に突き刺さる。
『お前は絶対死ぬんじゃない。姉が命を懸けて繋いでくれた命を、託された未来を繋ぐんだ。義勇』