第135章 為すべきこと<参>
「まったく、今更騒いだってしょうがないでしょ?覚悟決めなさい覚悟」
汐の有無を言わせない圧力に、善逸は涙を流しながら背を向けた。
「あっ、善逸。いい忘れてたけど、ありがとう」
炭治郎は、去り行く善逸の背中に向かって声を掛けた。
「俺に話しかけるんじゃねえ・・・!!」
しかし善逸は振り返ることなく、恨みと憎しみを籠った声で答えた。
「いやいや、待ってくれ。上弦の肆との戦いで片足がほとんど使えなくなった時、前に善逸が教えてくれた雷の呼吸のコツを使って、鬼の頸が斬れたんだ」
炭治郎は、朗らかな表情を向けて言った。
「勿論、善逸みたいな速さでは出来なかったけど、本当にありがとう。こんな風に、人と人との繋がりが窮地を救ってくれる事もあるから、柱稽古で学んだ事は全部きっと良い未来に繋がっていくと思うよ」
炭治郎の"目"と"音"は、嘘偽りのない彼の心を静かに映していた。
善逸はそんな炭治郎に一瞬だけ面食らうが、
「馬鹿野郎、お前っ・・・そんなことで俺の機嫌が直ると思うなよ!!」
しかし言葉とは裏腹に、善逸の表情はこれ以上ない程緩んだ笑顔になっていた。
それを見た炭治郎は(あ、ゴキゲンだ。よかった)と安堵し、汐は(単純な男ね・・・)と呆れた顔をした。
そのまま善逸は頭から花を咲かせながら、蝶屋敷を後にした。
「あ、汐。甘露寺さんが来てたって聞いたけれど、何か話してたのか?」
「うん。柱稽古の事を少しね」
「そうか。俺も詳細を善逸から聞いてたんだ」
「そうだったの。みっちゃんの話だと今回の稽古、今の柱連中は勿論、宇髄さんも参加するって」
「宇髄さんも!?それは楽しみだなぁ」
稽古が待ち遠しいのか、炭治郎は頬を赤くしながら鼻息を荒くしていた。