第134章 為すべきこと<壱>
「鉄火場さん!!」
「お久しぶりです、炭治郎殿」
炭治郎が嬉しそうに名を呼ぶと、鉄火場は礼儀正しく会釈をした。
「蛍がお騒がせして、申し訳ありません。この人、ちょっと目を離したすきに、どこかへ行ってしまって」
「いえいえ。鉄火場さんも具合は大丈夫ですか?汐から聞きましたが、怪我をされたと」
「まだ多少痛みますが、支障の出る範囲ではありません。お気遣いいただきありがとうございます」
鉄火場はそう言って、うめき声をあげる鋼鐵塚をしり目に辺りを見回した。
「つかぬことをお聞きしますが、汐殿を知りませんか?先ほどお部屋に行ったのですが、いらっしゃらなかったので」
「あれ?おかしいな。汐は着替えをするって言って部屋に戻ったはずですけど」
「そうですか。入れ違いになってしまったのかもしれませんね。よろしければ、こちらで待たせていただいても?」
鉄火場がそう言うと、炭治郎は「どうぞどうぞ」と言って、近くにあったもう一つの椅子を鉄火場に渡した。
「おい焔・・・。俺は怪我が治ってないんだぞ!それなのに頭を叩くとはどういう了見だ!!」
「あなたがみっともなく騒ぎ立てるからです。場所を弁えなさい、場所を」
怒りの矛先を鉄火場に向ける鋼鐵塚と、それを諫める鉄火場を炭治郎は呆然と眺めていた。
その時だった。
(あれ?この匂い・・・)
鋼鐵塚と言いあっている鉄火場から、いつもの彼女と異なる匂いがした。
それは、汐から時々香る果実のような匂いとよく似ていた。
(どうして鉄火場さんから、汐とよく似た匂いがするんだ・・・?)
炭治郎が新たに芽生えた疑問に首をひねっていると、入口の方から嗅ぎなれた匂いがした。