第17章 鬼と人と<弐>
「・・・やっぱり・・・」
それはやはり鬼ではなく、中身のないただの人形だった。そしてその中心には、赤い糸が括り付けられたかなり大きな縫い針が一本突き刺さっている。
「きっとこれでこの人形を操っていたんだわ。異能の鬼。【血鬼術】という特殊な能力を使う鬼。だとしたら本体はどこに・・・ん?」
汐は気づいた。鬼の気配が人形から消えている。慌ててあたりを見回すと、先ほどの針がするすると動いてどこかへ向かっている。
気配はそこからしているようだ。
汐はすぐさま針を追いかけた。これをたどれば、鬼の本体にたどり着けるかもしれない。罠である可能性もあったが、もう道はここしかない。
汐が糸をたどるとそこには、古びているがかなりの大きさの建物があった。糸はするすると生き物のように建物の中に入っていった。
扉があったが立て付けが悪いのかなかなか開こうとしない。ここで時間をとるわけにはいかず、汐は思い切って扉を蹴破った。
吹き飛ぶ扉を踏みつけながら、汐は中に入る。が、入った瞬間、彼女は思いきり顔をひきつらせた。
そこにあったのは、見渡す限りの人形、人形、人形・・・。おびただしい数の人形がぐるりと汐を取り囲んでいた。
彼に自宅で見たときは愛らしいとさえ思った人形が、今や不気味を通り越したおぞましいものに見える。
しかもみな、手や足や首がない未完成のものばかりだ。そしてどれからも、鬼の気配がする。
(まさか、まさか。こいつらが全員、鬼の一部・・・!?)
ここで襲われたらたまったものじゃない。汐はいったん外に出て体勢を立て直そうと数歩後ずさる。だが、その瞬間。
――にんぎょうにんぎょうつくりましょう
あたまをつけておててをつけて
あんよもふたつつけましょう
きれいなきものもきせましょう
きれいなきれいなおにんぎょう
わたしだけのおにんぎょう
不意に歌のようなものが聞こえた時、人形たちが一瞬赤く発光したかと思うと。
人形が一斉にまるで波の様に汐に覆いかぶさってきた。
汐は刀を構えるが、それよりも早く人形たちは汐を一瞬で包み込む。悲鳴を上げる間もなく、彼女は人形の波に飲み込まれてしまった。