第17章 鬼と人と<弐>
――全集中・海の呼吸――
――肆ノ型・改 |勇魚(いさな)下り!!
汐は屋根から飛び降りながら、勇魚昇りの勢いを込めて刀を振り落とす。だが、刃はわずかに鬼の頸からそれた。
それでも人質を解放するには十分だったらしく、人は手から離れた。
「ここはあたしに任せて、さっさと逃げな!」
へたり込む人に汐は一括すると、目の前の敵に刀を構えなおす。だが、月明かりがそれを照らした瞬間、汐は目を見開いた。
(何・・・こいつ・・・!?)
目の前にいたのは、人よりも二回りほども大きい日本人形に、阿修羅の様に顔が三つついた不気味なものだった。しかし、その顔の部分には目も口も鼻もない。
こいつが、右衛門の孫娘たちを連れ去った鬼なのだろうか。
人形鬼は汐に飛び掛かってくると、左側面の顔が割れ中から刃物が飛び出した。
その一撃を、汐は瞬時に横に飛びのいてかわす。すると人形鬼はくるりと方向を変え、刃物をむき出しにしたまま再び向かってきた。
攻撃をかわしつつ、反撃の隙を狙う汐だが、妙なことに気づいた。鬼の気配は確かにする、が、これがあんな遠くまで気配が届く強さとは思えない。
(まさか、これは鬼の本体じゃない?)
だとしてもこいつを放っておくわけにはいかない。ここで倒さねば、被害が出るのは確実だ。
汐はもう一度集中し、息を吸った。まずは動きを止めねばならない。
――全集中・海の呼吸――
――参ノ型 磯鴫(いそしぎ)突き!!
汐の鋭い突きが、人形鬼脳天を貫く。思わぬ反撃を食らったせいか、人形鬼はその動きを止める。そしてそのまま地面に引き倒し、胴体を思い切り踏みつけた。
何かが砕けるような音がして、胴体が砕ける。すぐさま刀を引き抜くと、その頸に刃を振り下ろした。