第17章 鬼と人と<弐>
汐が自宅に戻ると、右衛門は寝床にはおらず、散らかった作業場に座り込んでいた。
汐が何事かと覗いてみると、散らばっていた人形の手入れをしているようだった。
「これ、全部あんたが作った人形なのね。へえ、よく見てみると人形ってみんな顔が違うのね」
汐はしげしげと人形を見つめる。自分の故郷では見たことのないものばかりで興味がわいたのだ。
「一言人形といっても、どれ一つとして同じものはありません。人間と同じです。そして、人形とは読んで字のごとく、人の形をしたもの。その人の魂を映す鏡のようなものだと、私は思っております」
彼の言葉を聞きながら、汐はそばにあった人形をとった。どこまでも澄んだ透明な眼は、どこかの誰かを彷彿とさせる。
もしも自分を人形に例えるならば、どんな表情をしているだろう。
そんなことを考えていると、突如、体中を突き刺すような寒気が彼女を襲った。
――この気配は・・・!
間違いない。鬼が近くにいる。汐は|右衛門《うえもん》に絶対に外に出るなと伝えると、自宅を飛び出した。
鬼の気配は自宅からそう離れていない位置にある。どうやらどこかに移動しているようだ。
汐はそのまま足に力を込め、屋根へと飛びあがる。呼吸法により身体能力が大きく上がった彼女にとってこれくらいの芸当はできて当然だ。
汐は屋根の上を走りながら気配をたどる。すると、どこからか耳をつんざくような悲鳴が聞こえてきた。
汐がその方向へ向かうと、何かが人を引きずるようにして動いている。気配は、それからしていた。