第17章 鬼と人と<弐>
鬼にさらわれた元人形職人の右衛門の孫娘を探すため、汐はひとまず手掛かりを探すことにした。
炭治郎の様に鼻が利くわけでもない彼女は、こうして足を使って探すしかないのだ。
とはいえ、町は彼女が思っていたよりも広く全部調べて回るわけにはいかない。
まずは、この町で何か変わったことがないかを聞いてみることにした。
「ねえ、ちょっといい?」
汐は町の住民にそう声をかける。もちろん、右衛門のことは伏せてだ。
悲しいことだが、彼のことを口にすると皆眼に侮蔑を宿すため話してくれる確率が著しく下がってしまうからだ。
その結果、興味深い事実が分かった。
度々だが人が行方不明になっていることがあること。しかしそのほとんどが身寄りのない者や外部からの人間が多いため、特に事件化されているわけではないということ。
故郷の村や炭治郎たちと過ごしていた汐は、これほどまでに他人に無関心な人間がいることに心底驚いた。
(自分と関わりのないことには首を突っ込もうとしない。決して間違いではないけれど、何だか空しいな)
けれど、目の前の事実は決して動かしようがなく、汐もこれ以上干渉するわけにもいかない。
再び汐は捜索を開始した。
次に分かったことは、右衛門には、今の自宅のほかに彼専用の作業場と作った人形を一時的に保管している場所があったそうだ。
今はもう使われておらず、廃屋になっているようだが、これはかなり重要な手掛かりになりそうだ。
それに、もうじき日が暮れる。夜が来れば、そこからは鬼が活動する時間だ。不謹慎ではあるが、鬼が町に現れてくれれば追跡もしやすい。
汐は残してきた右衛門が気になったため、いったん彼の元に戻ることにした。
ついでに食材をいくつか買い込み、彼の為に料理をすることにした。
あの様子だとまともな食事をしていたのかも怪しいからだ。