第16章 鬼と人と<壱>
「私はその後、町の者に助けを求めかろうじて生き延びました。しかし、私の話を誰も信じてはくれなかったのです」
「でしょうね。人食い鬼なんて一般的には認知されていないもの。あたしだって、信じられなかったくらいだし」
そのころから彼は精神に異常をきたし始め、記憶もだんだん薄れていったという。そんな中、昔鬼狩りの話を聞いていたことを、汐の隊服を見て思い出したという。
「おねがいします、鬼狩り様。どうか、どうか孫娘を救ってください」
縋りつく右衛門を見て、正直汐は迷った。彼の話からすると、孫娘がさらわれたのはもうずいぶんと昔の事であり、普通に考えれば生きている確率は零に近い。
だがそれでも、汐は右衛門の手を振り払うことはできなかった。もしも、もしも【彼】だったならば、きっとこう言うだろう。
「・・・わかりました。お孫さんは必ず救います」
汐は右衛門の手を握りしめてはっきりとした口調で答えた。その言葉を聞いた彼は、大粒の涙を流して何度も何度も礼を言った。