第16章 鬼と人と<壱>
「昔は腕のいい人形職人だったらしいが、今は見ての通り、頭がいかれちまってるんだ。時々ああやって歌を歌いながら町を徘徊するんだが、おかげで子供たちは怖がって外には出ないし、客も寄り付かなくて商売あがったりだ。あ~あ、はやいとこくたばってくれねえかな・・・」
店主がぼそりとそんなことを漏らす。汐は思わず店主の顔を見つめると、その眼にははっきりと蔑みの意思が見えた。
それを見た瞬間、汐は一気に食欲をなくしてしまった。が、食べ物を粗末にするわけにもいかず、無理にでも押し込む。
「・・・ご馳走様」
汐はぶっきらぼうにそういうと、早々とその場所を後にした。あんな店主に焼かれた焼き鳥が気の毒でたまらない。
それよりも、何故だか汐はその男がとても気になった。
確かに情緒は安定していないようだったが、汐は見逃さなかった。彼の眼の奥に深い悲しみが宿っていることを。
汐は男が歩き去った方角へ足を進める。すると、数里先で男が座り込み歌を歌っている。
その声がなんだか悲しくて、汐の胸が締め付けられた。まるで、ここにはいない誰かに聞かせているようで・・・
「ねえ、おじいさん。ちょっといい?」
汐はためらいもせず男に声をかけた。男はしばらく歌い続けていたが、汐の存在に気づき歌を止めて声をかける。
「おや~。今日はいいてんきでおいしいですなあ~。はてさて、儂のまんじゅうはばあさんですじゃ」
男の言うことは支離滅裂で、確かに精神的に参ってしまっているようだ。だが、汐の服装を見た瞬間。男の目がかっと見開かれた。