第16章 鬼と人と<壱>
それから数刻後。
「お~い、着いたぞ」
男から声をかけられ、汐ははっと目を覚ました。早朝から歩き続けてきたせいか、いつの間にか眠ってしまったらしい。
慌てて荷台から降りると、すでに昼時は過ぎていた。
そして彼女の眼前には、目的地の町が広がっていた。
汐が思っていたよりも町は大きく、建物が並び人が行きかっている。
始めてくる場所に、汐の心は小さく踊った。
「んじゃあ、俺はこの先の集落まで行くからお別れだ」
「うん、ありがとうおじさん」
「いいっていって。何をするつもりはか知らんが、頑張れよ、兄ちゃん!」
男の言葉に、にこやかに礼を言った汐の顔が固まる。急に固まった汐を、男は怪訝な顔で見つめた。
「あのさ、おじさんに一つだけ言っておく。あたし、これでも一応女ですから」
青筋を立てながら訂正する汐に、男の顔がさっと青くなる。
「す、すまねえ嬢ちゃん!余りにも逞しかったからつい・・・」
「ううん、いいの。いいのよ。もう慣れてるから。うん、慣れてるから・・・」
腹立たしさを必死に隠しながら、汐は笑顔で男と別れた。
町に入ると、たれが焼ける匂いが汐の鼻をくすぐった。あたりを見回すと、近くに焼き鳥を焼いている屋台が見える。
それが視界に入った瞬間、汐のおなかの虫が盛大に鳴いた。
「・・・まずは腹ごしらえをしよう。腹が減っては鬼退治はできぬっていうしね」
本来の言葉は腹が減っては戦はできぬなのだが、鬼狩りである汐にはその言葉はあながち間違ってはいないのだ。
汐は屋台に近寄ると、並んでいる品物を見つめる。鳥皮、ねぎま、つくね、ハツ・・・どれもが皆汐を誘うようにおのれを主張している。
何を食べようか迷っていると、気前のよさそうな店主が声をかけてきた。