第16章 鬼と人と<壱>
馬車の荷台に乗せてもらった汐は、揺れる空を眺めながら目を閉じだ。
旅立つ前に、鱗滝から言われた言葉がよみがえる。
それは、目覚めた禰豆子の事についてだった。
その夜、鱗滝は二人を呼び出し彼が禰豆子に暗示をかけたことを伝えた。
それは【人間が家族に見え、人を傷つける鬼を敵と認識する】というものだった。
「人間が、家族・・・」
汐は小さくつぶやく。禰豆子が汐になつくのは、自分が彼女の家族のだれかに見えていると分かったからだ。
それはすなわち、汐自身を認識しているというわけではないということだ。
「汐・・・」
炭治郎は悲しげな眼で汐を見るが、汐は首を横に振った。
「大丈夫だよ、炭治郎。嫌われるよりはずっといいよ。そう、ずっとね・・・」
そう言って笑う汐の顔は、心なしか少しひきつっているように見えるのであった。
(炭治郎、禰豆子。今頃どうしてるかな・・・)
別れてからまだそんなに時間はたっていないはずなのに、目を閉じれば二人の事ばかり思い出してしまう。
二人が強いのはわかっているけれど、もしもどこかで傷ついてしまったらと考えてしまうのだ。
だが、そんな思いを汐は首を大きく振って払拭した。炭治郎とは金打をした仲だ。そう簡単に彼が約束を破るはずがない。
今は、任務の事だけを考えよう。
そう気合を入れて、汐は鉢巻きを締め直した。