第126章 強くなれる理由<壱>
『うるせぇ、うるせぇ、騒ぐな。どうせお前らみたいな貧乏な木こりは、何の役にも立たねぇだろ。いてもいなくても変わらないような、つまらねぇ命なんだよ』
鬼の言葉が無一郎の耳を穿った瞬間、目の前が真っ赤になった。
生まれてから一度も感じたことのない、腹の底から噴き零れ出るような、激しい怒りだった。
無一郎はその後の事を覚えていない。ただ、途轍もない咆哮が己の喉から発せられているとは思いもしなかった。
無一郎が我に返ると、目の前には杭や農具が突き刺さり、頭を岩で潰され全身を八つ裂きにされた鬼の身体が横たわっていた。
しかしそれでも死ねないのか、鬼は苦しそうにもがいていた。
朝になり、日が昇ると鬼は塵となって消え去った。しかし、無一郎にとっては心底どうでもよいことであった。
無一郎は残してきた有一郎が心配になり早く戻ろうとしたが、身体が突然鉛の様に重くなってしまい、目の前の家に戻るまでに時間がかかってしまった。
よく見てみれば、自分の身体にはいくつも傷がつき夥しい量の血が流れていた。
(兄さん・・・、兄さん・・・!)
無一郎は這いつくばりながらも必死で家の中に戻ると、兄は全身を血に染めながらもか細く息をしていた。
(生きてる・・・!)
無一郎は必死で兄の元へたどり着こうとするが、身体は石の様に固まり動かない。
そんな中、倒れ伏す有一郎の口から、泡のような言葉がぽつりぽつりと零れてきた。