第126章 強くなれる理由<壱>
『人を助けるなんてことはな、選ばれた人間にしか出来ないんだ!先祖が剣士だったからって、子供の俺たちに何ができる?教えてやろうか?』
有一郎は言葉を失っている無一郎を睨みつけながらつづけた。
『出来ること、俺たちに出来ること。犬死にと無駄死にだよ!父さんと母さんの子供だからな。結局は、あの女に利用されるだけだ!!
何か企んでるに決まってる』
有一郎は吐き捨てるようにそう言うと、涙目で俯いている無一郎に夕餉の支度をするように命じた。
それ以来、二人は口を利かなくなった。毎日のように通い続けているあまねに、有一郎が激怒して水を浴びせた時に喧嘩をしたきり――。
それから更に時は流れ、夏。
その年の夏は酷く暑く、二人の苛立ちも募る一方だった。あまりの暑さに、夜になっても蝉が鳴き続けていた。
その暑さを少しでも和らげようと、戸を開けていたその夜。
一匹の鬼が、二人の元に現れた。
鬼は瞬く間に有一郎の左腕を斬り落とすと、家中に真っ赤な雫が飛び散った。
激痛に呻く兄を、青白い顔で抱える無一郎に、鬼は嘲笑いながら言い放った。