第126章 強くなれる理由<壱>
『そんな言い方するなよ!あんまりだよ!!』
『俺は事実しか言ってない』
目に涙をためて言い返す無一郎を見て、有一郎は苛立たしそうに顔を歪ませた。
『うるさいから大声だすな。猪が来るぞ』
有一郎はそう言って、無一郎に背中を向けて言った。
『無一郎の無は“無能”の“無”。こんな会話、意味がない。結局過去は変わらない』
――無一郎の無は“無意味”の“無”
有一郎の針のような言葉は、無一郎の胸の奥深くまで突き刺さっていった。
(兄は、言葉のきつい人だった。記憶のない時の僕は、なんだか兄に似ていた気がする)
無一郎にとって兄との生活は、息が詰まるようだった。
彼は兄に嫌われていると思い、冷たい人だと思っていた。
月日は流れ、花が咲き始めた春ごろ。二人の元に一人の女性が尋ねてきた。
彼女の名は産屋敷あまね。鬼殺隊当主、産屋敷輝哉の妻だった。
そのあまりの美しさに、無一郎は白樺の木の精だと思ったほどだった。
あまねが尋ねてきたのは、有一郎と無一郎が始まりの呼吸の使い手の子孫であるということを伝え、鬼殺隊に誘うためだった。
無一郎はその事実に喜んだが、有一郎は暴言を吐いてあまねを追い返してしまった。