第126章 強くなれる理由<壱>
それは、銀杏の葉が舞い散る季節。
無一郎には双子の兄がいた。名は有一郎。
両親を失った彼らは、生きる為に必死に働いていた。
『情けは人のためならず。誰かのために何かしても、ろくなことにならない』
有一郎は切った木を背負いながら、淡々とした声で言った。
『違うよ』
その言葉を、無一郎は優しい声色で否定した。
『人のためにすることは、巡り巡って自分のためになるって意味だよ。父さんが言ってた』
そういう弟の言葉を、有一郎は振り返ることもせずに一掃した。
『人のために何かしようとして死んだ人間の言うことなんて、あてにならない』
『なんでそんなこと言うの?』
それが死んだ両親のことを言っていると気づいた無一郎は、悲し気に顔を歪ませて言った。
『父さんは母さんのために・・・』
『あんな状態になってて薬草なんかで治るはずないだろ。馬鹿の極みだね』
尚も止まらない兄の罵声に、無一郎の声が震えた。
『兄さん、ひどいよ・・・』
『嵐の中を外にでなけりゃ、死んだのは母さん一人で済んだのに』
この言い草に、遂に無一郎も思わず声を荒げた。