第126章 強くなれる理由<壱>
(酷く苦しそうだ・・・、肺に水が入ったんだ)
苦しそうに喘ぐ汐を見て、無一郎は自分の母親が風邪から肺炎をこじらせ死んだことを思い出した。
ひどい嵐の中、薬草を取りに行った彼の父親は、崖から転落して帰らぬ人となった。
「あ、あたしは、平気・・・。それより、小鉄・・・!小鉄が・・・!」
「わかった、わかったから、君は自分の心配をして!」
こんな状態でも自分より他人を心配する汐に、無一郎は思わず声を荒げた。
「こ、小鉄君・・・」
小鉄の着物にはあちこちに血が付着し、か細く息をしていた。
そんな小鉄を、無一郎はそっと抱き起した。
「時透さん・・・、汐さん・・・汐さんは・・・?」
「大丈夫、大丈夫だよ。汐は生きてる。無事だよ・・・!」
無一郎が答えると、小鉄はほっとした様に口元に笑みを浮かべた。
「時透さん・・・、おね・・・お願いします・・・。鋼鐵塚さんを、助けて・・・。刀を、守って・・・」
声が小さくなっていく小鉄を見て、無一郎の記憶は更に沸き上がった。
(両親が死んだのは十歳の時だ・・・。十歳で僕は一人になった)
一人。その事に無一郎は大きな違和感を感じた。
(いや、違う。一人になったのは十一歳の時だ。僕には兄がいた。双子だった)
無一郎の脳裏に、あの日の出来事がはっきりと蘇った。