第125章 招かれざる客<肆>
『いてもいなくても変わらないような、つまらねぇ命なんだからよ』
(なんだ、この感じは・・・。でも思い出せない。昔同じことを言われた気がする・・・。誰に言われた?)
無一郎の脳裏に、薄ぼんやりとここではないどこかの景色が蘇った。
とても蒸し暑い、夏の日。暑さのあまり、戸を開けていた。そのせいか、夜だというのに蝉が鳴いていて、酷くうるさかった・・・。
「ヒョヒョッ、しかし柱ですからねぇ一応は、これでも。どんな作品にしようか胸が踊る」
玉壺は嬉しそうに笑いながら、手をワキワキと動かしていた。
その隙を突いて、無一郎は一気に斬りかかる。
「うるさい。つまらないのは君のお喋りだろ」
無一郎の刀が玉壺の頸に届こうとしたとき、玉壺は別の腕から再び壺を生やした。
──血鬼術・水獄鉢(すいごくばち)
そしてそれを振り上げた瞬間、壺から大量の水が無一郎に向かってきた。
だが、水が無一郎に届く前に、彼の体に衝撃が走った。
「!?」
衝撃に耐えられず、無一郎の身体はごろごろと地面に転がった。同時に、玉壺からも息をのむ音が聞こえる。
(何だ、今のは・・・?)
無一郎は身体を起こし、顔を上げたその時。目の前の光景に目を見開いた。
そこには壺のような形の水球に閉じ込められた、汐の姿があった。