第16章 鬼と人と<壱>
「行先ハァ~、南東ノ町デスヨ~。南東ノ町デス~」
鎹鴉は間延びした声で、汐の周りをゆったりと飛びながら告げる。これから鬼を退治しに行くという危険な任務を告げる鳥のはずなのに、とてもそうは見えない。
軽い脱力感を感じながら、汐は歩みを進めていた。
(まるでウオノタユウみたいだわ・・・)と、ぼんやり思っていたがふと、汐の頭にある疑問が浮かんだ。
「ねえあんた。あんたって名前はあるの?あんたのこと、あたしはなんて呼んだらいいの?」
汐が問いかけると、鴉はゆったりと答えた。
「名前ハマダアリマセン~。モシモヨロシケレバ~、貴女ガ付ケテクダサイマシ~」
「え?そうなの?うーん、そうねぇ・・・」
汐はしばらく首をひねっていたが、やがて何かをひらめいたように手を打ち鳴らした。
「じゃあ、【ソラノタユウ】はどう?あんたのしゃべり方ってなんとなくウオノタユウっていう魚を思わせるの。でもあんたは空を飛ぶからソラノタユウ。どう?」
すると鴉は「構イマセンヨォ~」とまんざらでもない風に答えた。
「じゃあ今からあんたの名前は【ソラノタユウ】ね。よろしく」
汐がそういうと、鴉、ソラノタユウは汐の肩に乗りゆったりと鳴いた。
その瞬間、背後で何かが崩れるようなものすごい音が響いた。
驚いて振り返ると、馬車が止まっており積んでいたと思われる荷物が崩れてしまっていた。
荷車の持ち主と思われる男は、頭を抱えてうろたえている。
汐はすぐさま男に駆け寄った。