第123章 招かれざる客<弐>
「それより汐は、もう出発するのか?」
汐は頷くと、飛びついてきた禰豆子の頭を優しくなでながら言った。
「ありがとうね、炭治郎。またあんたには世話になったわね」
「それはこっちもだ。汐にはいろいろと助けられたよ。元気でな」
二人はそう言って固い握手を交わし、汐は炭治郎の目に宿る寂しさを見ないようにしてほほ笑んだ。
それを見ていた無一郎は、すっと音もなく二人の間に入ると、汐の目をじっと見つめた。
「な、なによ」
汐はその視線に耐えられずに目を逸らすと、無一郎は首を傾げながら言った。
「君と僕、前にどこかであったことあった?」
「え?前って、もう何度か会ってるじゃない。裁判のときとあいさつ回りのときと・・・」
「そうじゃなくてもっと前。君の声と歌、何だか聞いたことがあるような・・・」
無機質な"目"のまま淡々と言葉を紡ぐ無一郎に、汐と炭治郎も首を傾げた。
その時だった。
襖の外で何かの気配がして、汐達は一斉に視線を向けた。
「ん?誰か来てます?」
「さあ」
「里の人かしら。ちょっと見てみるわね」
汐がそう言って立ち上がった時、襖が音もなくそっと開いた。
その向こうから入ってきたのは、里の者・・・ではなく。
――涙を流し小さく悲鳴を上げながら、這いつくばっている異形の者だった。
汐達は一瞬面食らったが、数秒後にそれが鬼であると認識した。
それは炭治郎の鼻も、汐の気配を感じる力も反応せず、無一郎でさえ目視するまで鬼とは気づかない程気配のとぼけ方が上手かった。
その鬼は目に数字は確認できなかったが、間違いなくこの鬼は上弦だった。
そう、その鬼の名は半天狗。上弦の肆の称号を持つ鬼だった。
「っ!!」
汐はすぐさま刀を取り、炭治郎も同じようにして戦闘態勢に入った。
だが
二人が動くよりも早く、無一郎は刀を抜き放ち動いた。
――霞の呼吸 肆ノ型――
――移流斬り
無一郎の流れるような剣が、鬼のいた場所を綺麗に薙ぐ。
しかし鬼はそれを素早く躱すと、天上へと逃げ延びた。
(速い・・・、仕留められなかった)
無一郎が視線を動かすと、天上に張り付いた鬼は斬られた傷を抑えながら涙を流していた。