第123章 招かれざる客<弐>
美しく優しい歌は風に乗り里中へ運ばれ、それを聞いた者たちの心を優しく包み込んだ。
だがそれは、里の者だけではなく偶然そばを歩いていたある人物の元へも届いた。
「ん?」
黒と水色の長い髪を風に揺らしながら、時透無一郎は聞こえてきた歌に足を止めた。
耳に残る不思議な旋律に惹かれるように、無一郎は歌の主を捜して顔を動かした。
すると、崖の傍で青い髪と赤い鉢巻を靡かせながら歌う少女に目を奪われた。
なぜこんなところで歌を歌っているんだろう。何の歌なんだろう。そんな疑問を抱きつつ、無一郎は何故かその歌をもっと聞きたいと思ってしまった。
その歌にどこか、懐かしさを感じたから。
(何だろう、この感じ。僕は、この歌を、声を、知っている気がする・・・?)
胸の中に生まれた不思議な感情に戸惑いつつも、無一郎はその場から縫い付けられたように動かずにいた。
やがて汐が歌を終えてその場から立ち去るまで、彼は何かを思い出しそうな不思議な感情を抱えながらぼんやりとしているのだった。