第15章 幕間その弐
「汐の話を聞いていて思い出したけど、俺の家にも代々伝わるものはあるよ。この耳飾りと、【ヒノカミ神楽】っていう舞だ」
「ヒノカミ神楽?」
「厄払いの神楽と、それを行う呼吸法。新年の始まりに雪の中で一晩中舞って、無病息災を祈るものなんだ」
一晩中と聞いて汐は驚いた表情で炭治郎を見つめる。それを見て、炭治郎は小さく笑った。
「俺の父さんは体が弱かったんだけど、この神楽を踊るときは本当にすごかったんだ。まるで本当に神様みたいで、今でも覚えてる」
「体が弱いのに一晩中舞えるの?」
「ああ。動いても疲れない呼吸法があるって教わった。結局俺が舞う前にみんないなくなってしまったから、その機会はなくなってしまったけれど」
そういう炭治郎の眼が悲しみで曇る。汐も少しだけ聞いていた、彼の忌まわしい過去。
そんな思いを払しょくするように、汐は明るい声で言った。
「あたしも炭治郎の神楽、見てみたかったな。きっと素敵なんだろうな。炭治郎の舞う神楽。だってあんたのような素敵な眼をした人が踊るものだもん。きっと素敵に決まって――」
そこまで言った後、汐は慌てて口を閉じる。自分が今ものすごく恥ずかしいことを言ってしまった気がしたからだ。
そんな中、禰豆子が急に炭治郎の羽織をつかんだ。どうやら何かを訴えているらしいが、口枷をつけている彼女は言葉を発せないため意図が分からない。
しかし炭治郎はそうではないらしく、困ったような表情を浮かべた。
「禰豆子、なんて言ってるの?」
「俺にも歌を歌って欲しいって。汐みたいに」
「へぇ~、炭治郎の歌か。ちょっと興味あるかも。何か歌ってよ」
炭治郎は少し迷いを眼に浮かべたが、禰豆子と汐は期待を込めたまなざしで見つめてくる。
その二人の熱意に負けた彼は、おずおずと口を開いた。