第15章 幕間その弐
語り終わった汐を、炭治郎と禰豆子は黙ったまま見つめていた。
「これが、あたしの村に伝わるおとぎ話。ワダツミヒメの悲しい恋の物語、だなんていわれてるけど。あたしから見たら、無駄なことしてただ一人で勝手に舞い上がって周りの人間巻き込んだはた迷惑な神様にしか思えないわ」
そう言って汐は空を見上げた。いつもと変わらない、空にちりばめられた星が、優しく空を照りあかす。
「俺はそうは思わないな」
禰豆子の頭をなでながら、炭治郎はそういった。
「確かに多くの人を巻き込んでしまったのは事実だけど、それでも彼女はたくさんの人に慕われていたんじゃないかな。本当にはた迷惑な神様だったら、彼女を祀ったりなんかしないと思うんだ」
それに、と炭治郎はつづけた。
「俺はワダツミヒメのしたことは無駄だとは思わない。大切な誰かの為に困難に立ち向かうっていうのは、決して誰でもできることじゃない。結果は残念なことになってしまったけれど、そのおかげで生まれたものだってある。無駄なことなんてないと思うんだ」
そう語る炭治郎の眼は、どこまでも澄んでいて星空や月明かりよりも汐の心を惹きつけた。
彼の言葉はいつもいつも、汐の知らない感情を呼び起こす。