第122章 招かれざる客<壱>
「ということが昨日あってさ、刀の研磨が終わるまで三日三晩かかるらしくて、研ぎ終わるのが明後日になるんだ」
翌日の昼前。炭治郎はある部屋で煎餅をかじりながらそう言った。
鋼鐵塚家に伝わる研磨術。それは想像を絶するほどの苛酷な物らしく、命を落とした者すらいるという。
鋼鐵塚の身を心配する炭治郎は、覗くなと釘を刺されていたのにもかかわらず様子を見に行きたいと言い出した。
だが、それを聞いていたのは汐・・・ではなく。
「知るかよ!!出て行けお前等!」
何故か二人の前には玄弥がおり、目の前にいる汐と炭治郎に怒声を浴びせた。
「大体、なんで大海原まで俺の部屋にいるんだよ!?」
「だって人形が壊れてやることもないし暇なんだもの。それと、あたしの事は汐でいいって言ったじゃない」
「そういう問題じゃない!そもそも、女が男の部屋に来ること自体がおかしいんだよ!」
「なんでよ?別に知らない仲じゃないじゃない」
「うるせえな!大体、お前等何友達みたいな顔して喋ってんだよ!!」
声を荒げる玄弥に、炭治郎は心底驚いた顔をした。
「えっ、俺たち友達じゃないの?」
「違うに決まってんだろうが!!てめえは俺の腕を折ってんだからな!忘れたとは言わせねえ」
玄弥は炭治郎にそう怒鳴りつけるが、炭治郎は淡々と曇りなき眼で言った。
「あれは女の子を殴った玄弥が全面的に悪いし、仕方ないよ」
「そうよ。っていうか、あんたまだそんな昔のことを根に持ってるの?いい加減に忘れなさいよ」
「うるせーなぁ!!それと下の名前で呼ぶんじゃねえ!!」
二人とは対照的に玄弥はぎゃあぎゃあと騒ぎ続け、炭治郎は親交を深めようと彼に煎餅を手渡そうとした。
それを拒否し煎餅を叩き落すが、炭治郎は玄弥の顔を見てある事に気づいた。
「あれ?歯が・・・、抜けてなかったっけ?前歯。温泉で」
「前歯?温泉?」
「ああ。実は汐がいない間、どこからか歯が飛んできたんだ。飛んできた方向を見たら玄弥が温泉に入ってて・・・」
炭治郎の言葉に汐は玄弥の口の中を見ようと身を乗り出したが、玄弥は口を押えてそっぽを向いた。
「見間違いだろ」
居心地の悪い沈黙が少し続いた後、玄弥はぽつりとそう言った。だが、汐は玄弥の"目"が嘘をついていることに気が付いた。