第122章 招かれざる客<壱>
「人づきあいが下手すぎなんですよね、この方。だから未だに嫁の来手もないんですよね」
その言葉を聞いた汐は、脳裏に鉄火場の事が思い浮かんだ。悪態をつき、木槌で殴りつけることもあるも、彼に憧れ好意を抱いている彼女の事を。
「そう?実は案外近くにいるんじゃない?候補」
汐がそう呟くと、炭治郎と小鉄は怪訝そうな顔で汐を見つめた。
その時、倒れていた鋼鐵塚が弾かれるようにして起き上がった。
「この錆びた刀は俺が預かる。鋼鐵塚家に伝わる日輪刀研磨術で、見事に磨き上げてしんぜよう」
まるで世紀末に迷い込んだ者のような動きでそういう鋼鐵塚だが、小鉄の容赦ない一言が突き刺さった。
「じゃあ初めからそう言えばいいじゃないですか、一言。信頼関係も無いのに任せろって、馬鹿の一つ覚えみたいに」
すると鋼鐵塚は小鉄の首を掴んで締め上げたので、炭治郎と鉄穴森は慌てて彼のわきの下をくすぐりだすのだった。
やがて落ち着いた鋼鐵塚は、錆びた刀を持って仕事場へ向かうと言った。
「あ、ちょっと待って」
そんな鋼鐵塚を汐は呼び止めると、彼にだけ聞こえる声で言った。
「鉄火場さん、あんたからの贈り物、ものすごく喜んでたわよ」
鋼鐵塚は一瞬だけ足を止めたが、言葉を発しないまま森の中へと消えていった。