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【鬼滅の刃】ウタカタノ花

第15章 幕間その弐


――むかしむかし、あるところに。
美しい海の女神がおりました。
名を『ワダツミヒメ』と言い、彼女が治める海には命があふれ、人々は日々その恩寵に感謝しておりました。

ある日のこと。ワダツミヒメは、浜辺で一人の若者を見かけました。その人ははるか遠い天上の世界を治める神でした。
その立派な出で立ちに、彼女はすっかり心を奪われてしまいました。

それからというものの、ワダツミヒメは来る日も来る日も、彼のことばかり考えていました。
名はなんというのだろう。どこに住んでいるのだろう。好きなものはなんだろう。

しかし、募るばかりの思いとは裏腹に、彼女は彼に声をかけることができませんでした。

それから長い年月が経ちましたが、ワダツミヒメは彼を忘れることができませんでした。
それならばせめて、彼のために何か贈り物でもしたいと思いました。

ワダツミヒメは、それから彼に何を贈るか三日三晩悩みました。そしてついに、贈り物を決めました。

それは、海の底に咲いているという『泡沫の花』という幻の花でした。
しかし、それは幻というだけありなかなか見つけることができません。
それでも、ワダツミヒメは彼に会いたい一心で必死に探し続けました。

それからさらに年月がたち。ワダツミヒメはついに花を見つけることができました。
彼女はすぐさま花を摘むと、彼の元へと急ぎました。

もうすぐ会える。彼に会える。ワダツミヒメの心は喜びでいっぱいになりました。

しかし、その願いはかなうことはありませんでした。
なぜなら、彼にはすでに心に決めた相手がいたのです。
その瞬間、彼女の心は深い深い闇に包まれ、それに呼応するように、穏やかだった海は荒れ狂い、村や人々を次々に飲み込んでいきました。

それを見かねた神々は、ある人間に海を鎮める歌を教えました。
それを行うと、海は元の穏やかを取り戻しました。
その後、ワダツミヒメが治めていた海のそばの村では、想いを伝えることができなかったワダツミヒメを想い鎮める祭りがおこなわれました。
そしてワダツミヒメを鎮める歌を披露する者を『ワダツミの子』と呼ぶようになりました――
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