第121章 記憶の欠片<肆>
「お待たせしました、汐さん!準備できましたよ!!」
小鉄が調整してくれた人形は、五本の腕を振り上げながら汐の方へ向かってきた。
汐は刀を構えると、大きく息を吸った。
汐が動くと同時に、人形も動き汐に向かって二本の腕を振り上げた。だが汐はその攻撃を紙一重で躱すと、人形に向かって刀を振り上げた。
人形もそれを予測していたかのように、三本目の腕で汐の一撃を受け止め、死角から四本目の腕が迫ってきていた。
「危ない!」
炭治郎は思わず叫ぶが、汐はその一撃を身体を大きく逸らして躱した。その身体の柔らかさに、炭治郎と小鉄は目を見開いた。
「す、すごい・・・」
小鉄の口から思わず声が漏れた。時透程までとはいかないが、汐の動きには無駄がなく、以前よりもはるかに精錬された動きになっていた。
(汐、また強くなってる。匂いも前とは違う。流石甘露寺さんの、柱の継子だな・・・)
まるで踊っているかのようなその動きに、二人は目を離すことができなかった。
一方。戦いの中の汐は、思ったよりも的確に弱点を突く人形に驚いていた。
伊黒との訓練に酷似していたが、人間である彼とは異なり、目の前の相手は人形だ。"目"を見ながらの予知動作は通用しない。
(まるであのときみたいだわ。鯨岩の入り江に潜った時みたいな、何も見えない手探り状態の時みたい)
以前より強くなっているとはいえ、今のままじゃまだまだ足りない。自分も炭治郎と同じ、もっともっと強くなりたい!
そんな思いを抱きながら刀を強く握った、その時だった。
汐の前に、青く輝く道のようなものが現れたのだ。それは人形の足元をかいくぐるように伸びている。
汐は迷うことなく、その道に沿って足を踏み出した。
すると先ほどよりも素早く、性格に人形の隙に入るような動きになり、人形よりも早く間合いに入ることができた。
「これでっ、最後だあっ!!」
人形が腕を振り下ろすよりも早く、汐の一撃が人形を穿った。大きな衝撃音と共に、人形の身体が大きく傾いた。
「や、やった!」
炭治郎が思わず声を上げ、小鉄は呆然と二人を見つめていた。