第121章 記憶の欠片<肆>
「あ、後。汐殿からお預かりした懐剣ですが、やはり錆付が酷く一筋縄ではいかないようです」
「そう・・・」
「でも私は諦めません。汐殿が私を信じて任せてくださった仕事ですから」
鉄火場はやる気を見せてはいるが、汐には心なしか声が疲れているように聞こえた。
「頑張るのはいいけれど、刀が完成したばかりなんでしょ?別に急いでるわけじゃないから、無理だけはしないで」
汐がそういうと、鉄火場は嬉しそうに笑った(ような気がした)
(そう言えば、鋼鐵塚さんの事鉄火場さんに伝えたほうがいいかな?でも鋼鐵塚さん本人は誰にも言うなって言ってたけど・・・)
汐が心の中で葛藤していると、不意に鉄火場がくすりと笑った。
汐が首を傾げると、鉄火場は小さく笑いながら言った。
「いえ、実は今朝方、私の工房の前に置物が置いてあったんです。それがなんと、私の好物の"唐辛子煎餅"だったんです」
鉄火場は余程嬉しかったのか、声を上ずらせながら言った。
「私の好物を知っているのは長と、ほた・・・鋼鐵塚だけなんです」
その様子を見て汐は、なんだかんだ言って鋼鐵塚も鉄火場を気にしていることがわかり微笑ましくなった。