第8章 見えないトコロ
「…でも…もう、他にそう呼んでくれる大切な人は…いないから……」
いないと思うと涙が滲んで、鼻声になる。
「…誰も、いなくなった…帰れないし…私…ひとり…で……」
最後まで声に出来なかった。
スカートをギュッと握って我慢をしても、涙が溢れた。
ここで、ルシエトに拒否されたら、本当にひとりぼっちになるような気がした。
最初はあんなに、嫌な人だと思った王子なのに。
「俺が、そう呼んで良いのか?」
熱気を残しながらも、静かに涼しいこのエジプトの夜ような、ルシエトの声。
「…はい…ルシエト様には、そう呼んでもらいたいんです……」
何故だかそう思った。
別に愛称で呼んでもらう必要はないはずなのに、ルシエトにもそう呼んでもらいたかった。