第2章 カバネリの女
「この先は私共の屋敷しかありませんよ。一人で行っては捕縛されますからね。」
来栖は疑問符でいっぱいだった。
道すがら高宮の武士に勧められたというのに。
仕方なく来栖もの後ろをついて歩くようにするしかなかった。
「しかし、生命の息吹きが通るとされる場所だと勧められたのだが…」
はそれを聞いてまた笑う。
今度は本当に可笑しそうだ。
「あら、ここは屋敷へ通ずるただ一本の道です。誰かがからかったのですね。」
「何!」
あの高宮の武士の顔、もうあまり思い出せないが腹立たしい。
田舎侍とでも思って馬鹿にしたのか。
羞恥のあまり胃の奥から熱が涌き出た。
「ここの武士は遊び心があるのです。どうかこのに免じて御許しくださいませ。」
は光に照らされずとも神々しさを纏った笑みを向けた。
木漏れ日の注ぐトンネルを抜け、石畳の道を少し行くと元きた道だ。
あの武士もまだ立っている。
見つけるとさらに腹立たしい。
来栖はの横を通り抜け、道角に立つ武士に鬼の形相で向かっていった。
「おい貴様!よくも騙してくれたな!」
だがその武士はただ楽しそうに笑って、来栖の後ろの女神に気づくともう彼女しか見ていなかった。
武士はに手を振り宮様と呼んだ。
「宮様、お出かけですか?」
「はい、今夜の舞台の準備をしに。」
「どうぞお気をつけて。楽しみにしております。」
は待ってますよと一言。そして通りを曲がって広場の方へ行ってしまった。
残された二人の武士。
「いい場所だったろう?」
相も変わらずニヤニヤと反省の意を示すことのない高宮の武士に苛立つも、一つ呼吸をおけばどうでもよくなった。
確かに素晴らしい場所であった。何か力が宿りそうな神聖さをもっていた。
「途中で殿に会わなければ捕縛されるところだったのだぞ?良いわけないだろう。」
「分かってないなぁ。宮様の神聖なる敷地に足を踏み入れただけでも幸運と思え。」
そう言われても有り難みはよく分からない。
来栖は高宮の遊び好きな武士を放って甲鉄城へ今度こそ戻った。