第5章 武士の初恋
「殿。」
「はい?」
来栖は馬を止めた。
も隣につけて止める。
これで足止めをしたところで何になるだろうか。
一日非番とはいえ本来警護に非番もなにもない。
早く戻るのが得策だ。
だがもう少し共にいてみたい。
ただ黙る来栖を不思議に思いながらもは急かすことなく待った。
「まだ、時間はあるか?」
瞬間、彼女の顔は驚きはしたが温かい微笑みに変わった。
「ええ、まだ半日はありますよ?」
それには思わず来栖も笑ってしまった。
明六つが来るまで共にと言うようなものだ。
きっと甲鉄城の者らは来栖の不在を不思議がるだろう。だがそれも吉備土がうまく言いくるめてくれることも分かっていた。
(菖蒲様。申し訳ありません。もう暫しお時間を頂戴したく。)
「さぁさぁ、行きますよ来栖様。町でお食事でもいかがですか?」
「そうだな。なら殿の行き付けに。」
「はい、お任せください。」
二人は再び馬を走らせてまずは屋敷へ急いだ。
夕闇に終われるように。風のように。