第2章 カバネリの女
女は木漏れ日に照らされ微笑む。
脅威が感じられないことこそ脅威。
しかし来栖は松茂の言葉を思い出す。
カバネを倒す術を身につけた姉弟の長女はカバネリだということ。
確か名前は…。
「では貴女が殿か?」
は着物の袖で口元を隠して小さく笑った。
「松茂殿から聞いたのですか?早いですね。」
確かに自分がであると女は言った。
来栖は構えを解き、正面に向き直る。
まさかここで会うとは思わなかった。
来栖は自らも名乗り、話を続ける。
「我が四方川家惣領、菖蒲様が殿にお会いしたいと仰せだ。」
「まぁ左様ですか。して、菖蒲様はどちらに?」
見たところこの緑の中には二人の男女しかいない。
は来栖の後ろを確認したがやはり誰もいなかった。
「菖蒲様は今晩、貴殿の舞台をご覧になるのでその時にでもと。」
あぁとようやく状況が掴めたは分かりましたと一つ頷いた。その所作の華麗なるや。
普段から菖蒲を見ている来栖でも見いるほどだった。
「そして、来栖様は。武士ともあろうお人が主君の元を離れていて良いのですか?」
それを聞いて数刻前の菖蒲の膨れっ面が甦る。
お側に仕えるがやはり女心は分からない。
「あ、菖蒲様はご自分の時間をお過ごしですので…」
成る程と、はゆっくりと頷き来栖の様子を見ては艶やかに微笑んだ。
「ではどうでしょう、来栖様。私のお話相手になっていただけませんか?」
突然の申し出に驚くも瞬時にこの後の予定を思いだそうとしていた。の後光に惑わされたか。
もちろん甲鉄城に戻る以外は何もないのだが。
それでも見ず知らず女のしかもカバネリの話相手など到底務まらないと来栖は思った。
「己は遊びにきたのではない。」
は残念そうに視線を落とすと、そうですかとぽつり呟いた。
だがすぐにまた菩薩の如く微笑む。
「では後程、舞台の後で。」
そう言うと、は来栖の横を通りトンネルの入り口へ向かっていった。
「あ、そうそう。」
少し離れたところで見返る。まるで美人の浮世絵だ。