第1章 平和の象徴
「姉弟?」
きょとんとしている菖蒲に松茂は続けた。
「左様。カバネに対抗する術を身に付けている姉弟にございます。特に一番上の姉殿は人ならざる力でカバネを駆逐する。カバネと人の狭間にあるカバネリというものなのです。」
「!ここにもカバネリがいるのですか?」
菖蒲は前のめりになりながら訪ねた。
来栖が小声で名を呼ぶので菖蒲ははっとして座り直す。
「すみません、我が甲鉄城にも二人乗っているのですが、他ではお見かけ致しませんので。」
「そうでしたか。彼らは強いでしょう?」
「はい、高い戦闘力で幾度と救われました。」
「外から来るものはカバネリという存在を怪訝する者も多い。菖蒲殿は理解があって助かります。」
「上田様、その殿にお会いすることは出来ますか?何か情報を共有できたらと思うのですが。」
「えぇえぇ。確か今日は広場で舞台を開くそうですよ。高宮の民も彼らを大変慕っております故、近づくのは容易ではないでしょうが…」
菖蒲と来栖は上田家を出ると、屋敷の前で足を止めていた。
「広場はこの先でしたね。」
「はい、しかし舞台とは…カバネリ風情が何を考えているのか。己には皆目見当もつきません。」
「カバネと闘う様を劇にでもするのでしょうか?上田様も見てからのお楽しみですなんて、教えて下さらなかったものね。」
「民も多く集まると仰せでしたので、菖蒲様、呉々も私から離れぬようご注意くださいませ。」
「はい。でも来栖、舞台が始まる暮六つまではまだ時間がありますから、少し休みましょう?」
「はっ。」
菖蒲が通りを市場へ向かって歩き出すと、少し後ろを来栖がついて歩く。
菖蒲としては互いに休みましょうと言ったつもりだったが。
「ね、ねぇ来栖?」
「はい、菖蒲様。」
「私もこの平和を楽しみたいのです。」
「はい、存分にお楽しみください。」
「…………。」
菖蒲の笑顔が固まった。
「一人の時間が欲しいと言っているのです。」
「はっ…!!!」
ようやく気がついた来栖は顔を赤らめて三歩下がり膝をついた。
「失礼いたしました!!警護とはいえ、常に行動を共にしようなどとなんと、なんと己は烏滸がましいことを…」