第1章 平和の象徴
「駿城は久しぶりです。長旅でお疲れになったでしょう。この辺りの他の駅はもうカバネの巣窟となっているから。」
「はい、ここへ来る途中に通過して参りました。」
「うむ。四方川家の御嬢様が甲鉄城に乗っているところを見るともしや顕金駅は…」
「お察しの通り、カバネによって廃駅に。この甲鉄城には民も乗っております。大所帯で申し訳ございません。」
「あぁいやいや、何も気にしないで。食料や物資の支援を致しましょう。だから何も心配なさらずに。高宮駅は安全です。ここにいる間だけでもよくお休みください。」
「ありがとうございます。ただでとは申しません。献上の品を持って参りました。」
「ほぅ。」
来栖は持っていた木箱を菖蒲に渡す。
菖蒲が箱を開け、中を見えるように差し出した。
噴流弾と専用の蒸気筒だった。
松茂は箱を寄せて、よくと眺めた。
「菖蒲殿。この筒は一体。」
「甲鉄城の蒸気鍛冶が考案しました、カバネに対抗する武器でございます。カバネの心臓皮膜を破るほどの威力があります。」
従者も顔を見合わせた。
そしてほくそ笑んだようにも見えた。
「ありがとうございます。ですがお気持ちだけで結構です。」
その言葉には来栖も驚きを隠せなかった。
どの駅に言っても驚かれ、菖蒲も一目置かれることになるほどの代物だったからだ。
これに満足しないとは何が望みなのか、ますます疑いの目でみてしまう。
「実はカバネを倒す武器はすでに武士全員に持たせてあります。数年前に狩方衆がこの駅を訪れましてな、その際にカバネをも倒す筒や刀についてご指導ご鞭撻頂いたのです。」
「左様で、いらっしゃいますか…。」
菖蒲は美馬率いる狩方衆との一件を思いだし眉を潜めた。
総長美馬の企みで金剛郭は崩壊を余儀なくされたのだから。
松茂は菖蒲の様子を見逃さず、美馬のことは噂で耳にしたと付け加えた。
「高宮の平和にはもうひとつ理由がありましてな。」
松茂は再びにこやかに話し出した。
その表情からも平和が滲み出ているようだった。
「姉弟がカバネを退治してくれるのです。」