第1章 平和の象徴
これほど高い外壁と頑丈な門に囲まれた駅なら…と誰もが期待する。
そして、今回はそれを裏切らなかった。
大門の門番は大きな声で歓迎の声をあげている。
そこから見える景色も実に豊かな暮らしぶりが伺えるほどだった。
甲鉄城は緩やかに停車し、最初に惣領の菖蒲が来栖を連れてデッキに出た。
その下ではこの駅の武士が数名見上げている。
「四方川家惣領、菖蒲と申します。物資の補充と甲鉄城の整備をさせていただけますでしょうか。もちろん長居は致しません。」
武士の一人が前に出て会釈した。
「菖蒲様、高宮駅へようこそお越しくださいました。この辺境までくる駿城はいませんので、うちの蒸気鍛冶はその腕をもて余しております。お手伝いさせていただきますのでどうぞご指示ください。」
「まぁ…」
なんと友好的だろうかと菖蒲は思ったが来栖は裏があるのではと疑っていた。
「検閲はしないのか?」
来栖が訪ねると武士は言った。
「必要ございません。恐れいりますが菖蒲様は惣領上田様のお屋敷へ。案内を致します故。」
「ありがとうございます。」
菖蒲は顕金の民を鰍や吉備土たちに任せ、自らは来栖と上田家の屋敷へ挨拶に向かった。
献上の品を携えて。
道中には市場を通ったが活気に溢れ、人々は笑顔が絶えなかった。
菖蒲は上田家の惣領の技量あってだと思った。
また景色も見事で遠くの山は青く、花が咲いているのが見えた。
「綺麗…」
思わず呟いてしまった菖蒲に来栖はそうですねと返した。
上田家の屋敷は高台にあり、長い階段を上りきると町を一望できた。
大門から町までは少し距離があり、そこも緑の平原となっていた。
「こちらです。」
屋敷の中の奥の部屋へ案内されると、一人の老中と従者が二人待っていた。
その前に座布団と茶菓子が用意されているところを見るとこの老中が上田家の惣領であることはわかった。
しかし菖蒲はそれよりも用意されていた水羊羹と美しい練りきりあんが見えたので気になってしまっていた。
「四方川家惣領、菖蒲と申します。」
「どうぞ。お入りください。上田家惣領、松茂と申します。」
菖蒲と来栖は用意のある所へ腰をおろし一礼した。
「突然の訪問に関わらず、受け入れてくださり感謝致します。」
松茂は目尻にさらにシワを作って終始にこやかであった。