第5章 武士の初恋
鷹をこれ程近くで見たのは初めてだった。
鋭い眼光を放ち、静かに鎮座する様はまるで武将。
大人しいので腕に乗せるよう促され、右手を差し出せばひょいと簡単に止まった。
しかし鷹狩は通常少数人で獲物を追い詰めていくものだ。いくらなんでも二人は少なすぎる。
その方法について聞けば、まずが獲物を追い詰めるので、そうしたら風花を放てという。
シンプルだがたった二人で獲物を追い込むこと自体がこの広い森では難しい。
「この先に林があります。そこで獲物を見つけましょう。それと、風花が飛びやすいように放つ練習も必要ですね。」
腕を押し出して鷹を放つのだが、来栖は飲み込みが早くすぐに成功させた。
獲物には先に見つけた野うさぎを。少々可哀想とも思ったが、見つけるなりは馬を走らせ追い込んでいった。
その見事な走りというか、逃げ道を塞ぐために途中で馬を飛び降りて、木から木へ飛びうつりあっという間に挟み撃ちにしてしまったのだ。
鷹を使わずとも狩れる勢いだった。
来栖は野うさぎの動きが一瞬止まったところで風花を放った。
風花は真っ直ぐ飛び、大きな翼を羽ばたかせ鋭い爪をそのふかふかの体に突き立てた。
瞬時の間であった。
「お見事!」
が馬に戻り手綱を引いてやってきた。
風花は指示があるまで野うさぎをしっかり捕まえている。
手を叩いて戻すように手振りで言われその通りにすると風花は野うさぎを離して来栖の腕に戻ってきた。
その従順な愛らしさときたら、なんともたまらない。
「風花は優秀だな。」
頭をそっと撫でると気持ち良さそうに目を瞑っていた。それがまた可愛い。
「来栖様も筋がとても良いですよ。風花も喜んでおります。」
相変わらず目を瞑ったまま撫でられている姿を見ると喜んでいるようにも確かに見えた。
「とても貴重な体験をさせてもらえた。ありがとう。」
「では、来たついでですから来栖様にすごいものをお見せしましょうか。」
と、はまた袖の袂より笛をだした。今度は短く三回、長く一回吹く。
林がざわめくのを感じた。風花は飛び立ちの手に止まる。
やがて鎮まった林に少し緊張感も走る。
「すごいもの、とは一体……」
言いかけたときだった。空から無数の鷹が急降下してきたのは。