第5章 武士の初恋
話す内に自然と二人は宮家の屋敷への路を辿っていた。
例のトンネルの前まできて来栖はようやく気がついた。
上手いこと誘導された。屋敷での出来事が脳裏に蘇りまた顔に熱が籠る。
「こ、この後はどうなさる?」
「そうですね…。来栖様は武士ですからね、女子供の遊び事はつまらないでしょうし…」
それは菖蒲が常日頃やっていた稽古事のようなものだろうかと想像を巡らせる。
「そうだ!鷹狩なんていかがです?」
「鷹狩!?」
将軍家らが嗜むのは聞いたことがあったがそれも蒸気機関が発達し、今となっては古い狩猟だ。
「やったことは?」
「ない!」
鷹を間近で見たこともない。
好奇心が勝り、その目力が返事の代わりとなった。
「では馬を連れて狩場へ行きましょう。何事も経験ですよ。」
二人は屋敷の裏の馬小屋から二頭を連れ出した。
来栖が自分の愛馬意外にも跨がるのは久しぶりのことだった。
とても落ち着いていて人を乗せることに慣れている馬だった。
それとは逆にの愛馬は少しばかりやんちゃな黒馬だったが彼女が乗れば途端に大人しくなった。
「馬術も得ているのか…」
女でありながらまるで将軍のような趣向だと密かに思う。
「さぁいきますよ、こちらです!」
拍車をかけて馬を勢いよく走らせる。
森の中も走り慣れているようで猛スピードでも木々を難なく避けていった。
来栖は段々とこの馬の扱いに慣れてきたので、すぐにの横につけた。
程なくては手綱を引き馬を止めた。
それに合わせて来栖も停止する。
そこはまだ鬱蒼と木々の茂る場所だった。
湿気が漂い、空気が冷たい。
は袖の袂から小さな笛を取りだして森に響かせるように吹いた。
高い音が遠くまで響き渡り、こだました。
二回長く吹くとひたすらに天を眺める。
その様子に来栖も空を眺めた。
すると羽音が近づいてくるのがわかった。
そしてこだまして聞こえたのは笛の音ではなく羽音の主だということも。
それは二、三回上空を旋回すると構えるの腕に真っ直ぐ降りてきた。
大きな翼を広げれば6尺ちょっとはあるだろうか。
黄色の尖った嘴は先が黒く刃のよう。
「可愛いでしょう?風花(かざはな)といいます。」
背中に斑の雪模様があるので風花という名にしたのだという。