第5章 武士の初恋
が15歳になるのと同時の祝言だった。
その席に弟たちはいない。
弟らは離れに屋敷を用意してもらい、そこで暮らせることにはなった。
皆の生活が保証されるのならと思い泣く泣く嫁いだが司総はあっけなく居なくなった。
その後に当時家老だった松茂が惣領代理を務めることとなった。世継ぎもいない上田家だったが司総の精神を見事表現してみせた松茂は瞬く間に信頼を得ていった。
その後未亡人扱いとなっただが祝言を公にしなかったこともあり、後家を立てるために上田家の屋敷を出て離れに住まう弟たちのもとへ戻った。
それが良かったのか悪かったのか来栖には言い難い。
だがとても苦労があったことだけは分かった。
それは下侍と罵られてきた来栖だからこそだ。
「初めの内は石を投げられたり、弟たちが虐めにあうこともありましたが、その後のカバネ襲撃で狩方衆に救われた後、地道に駅を守ることで信頼を得てきましたよ。」
元々は弟たちのためだった。
愛する唯一の家族を守るために知らない男の元へ嫁ぎ、亡きあとはカバネリになってまで守った。
見た目では計り知れない意思の強さが彼女の生き様にある。
美しさだけではなく心の強さも持ち合わせるにより一層の魅力を感じた。
「司総殿が戻らないことは辛くなかったか?」
「いいえ。」
その返事に少しほっとしてしまう。
「たった一度顔を合わせただけですから。会話もほとんどしませんでしたし。」
もうすでにふり切ったのか、元々好いてもいない人だからなんともなかったのか。特に思入れはないと見えるその表情にまた安心してしまう。
不謹慎なのだろうか。
「来栖様は?」
「ん?」
「来栖様は顕金駅にいたころはどのようにお過ごしだったのですか?」
「己は……」
来栖も幼くして罵倒される日々を長く過ごしてきた。
母はカバネに殺され、父も失い。尊厳なんてものもない。
これまで当たり前にあった苦しかったことも、菖蒲という光が差したことも、この時ばかりは素直に話せた。
ほとんどは菖蒲と菖蒲の父がいかに素晴らしい人かをつらつらと述べたものだったが。
呆れる程敬愛する主君のなんたるやをはただ静かに頷きながら聞いていた。