第5章 武士の初恋
たちが高宮駅に逃れたのはもう五年前のことになる。
幕府の時代になり、分家は都を追い出されそれでも尊厳を失わぬよう丁重に扱われてはいたらしい。
だがらが住む離宮もカバネが襲った。
駅内での集団感染であっという間の出来事だった。
一部の従者や侍女たちがら姉弟を連れて駅を出る駿城に避難させた。
数日は他の民人と同じ車両に寝泊まりをした。
従者の何人かはそれを嫌がり個室を用意するように取り合っていたが余計に白羽の矢が立つだけだった。
どうにか高宮へ流民としてやってきたが当時はこの駅もカバネの襲撃にあったばかりで荒れており、流民のせいで貴重な配給が減るとあちこちで騒動も起きていた。
逃れて直ぐは他の流民と同じように小さな小屋に侍女たちと弟三人、数名の従者で過ごした。
一番下の弟の恵はまだ宮廷の内のことしか知らなかったので、汚れた狭い部屋に長時間いて充分な食事もとれずに心身共に憔悴していった。
分家とは言え宮に仕える者たちもそれなりに美しい衣を来て衣食住を過ごしていたので、このあまりの生活水準の差に疲れはてていた。
従者の何人かはこの有り様に我満できず、宮の尊厳を維持するためと称してを高宮駅城主、上田家惣領の元へ嫁がせることを提案した。
としても三人の弟や苦労してついてきてくれた従者や侍女にこのままでは申し訳がたたないと思っていた。
分家とはいえ各駅の城主と宮家では身分が違う。
だがカバネ禍もあってそれは徐々になくなりつつあった。
果たして嫁に迎えてなどくれるのだろうか。
その頃はまだ十四歳。当時の上田家惣領は二十五歳。若いが十は離れていた。
当時の惣領、司総(つかふさ)という男はその歳になっても嫁を一切貰わぬ変わり者だった。
剣術に長け、自らカバネ退治もすることもあったそう。上背があり豪腕駿足のまさに虎のような男だったらしい。しかしそんな司総もどう言いくるめられたのか、簡単に求婚を受け入れた。
即座に祝言があげられ、その席で二人は初めて顔を合わせた。
「う…上田家の奥方様!?」
そこまで聞いて来栖は亭主持ちの女と何をしている場合かと慌てふためいたがは気にせず笑った。
「どうぞお気になさらず、未亡人でございますので。」
司総は祝言の翌日にカバネ退治へ出たきり戻らないという。