第5章 武士の初恋
「見てください、新作の大福だそうですよ。」
手のひらには笹の葉が敷かれその上にころんと大福が二つ乗っていた。
は嬉しそうに御一つどうぞと差し出している。女性は甘味が好きな人が多いなと改めて思った。
貴重な品であることに違いはなく、大福のような茶菓子はなかなかお目にかかれない。
特段好みなわけではないが手にとった。
「いただきます…」
一口食べると餅取り粉がほろほろと口端を溢れ落ちる。しかも餡と一緒に何か甘酸っぱい果物が入っていた。
その正体が何かを不思議そうな顔で吟味する来栖を見ながらも頬張った。
意外にも大口をあけて一口で食べる様に笑いそうになる。
美味しいやら何やら感想を述べていたが、口にたくさん入りすぎていてよく聞き取れなかった。
甘酸っぱい果物の正体が蜜柑だったのは店先の女将が教えてくれた。
「まぁ、これは素晴らしいですね!間違いなく人気になりますよ!」
ようやく全て飲みこんだは余程好みだったのか大絶賛だった。
女将や店奥にいた店主はそれを聞いて嬉しそうに笑っていた。宮様のお墨付きなら間違いないと。
「弟たちにも食べさせたいのですが、いくつありますか?」
「まだ試作段階だったんですよ。宮様がお好きならまた作りますから、用意が出来たら御屋敷にお持ちいたします。」
お餅だけにと店奥の店主はより大きな声で笑った。
「いえいえ、きちんと払いますので、ご用意いただけましたらまた伺います。」
「なら明日でも。」
「ありがとうございます。では二十ほどお願いします。」
「二十!?」
来栖はその数の多さ思わず声に出てしまう。
「そうですよ、弟たちと侍女たちと。あとは私のですけど。」
「見た目に似合わず食い意地がはってるな…」
「宮様はそう言って自分の分も人に与えるんですよ。」
「ほう…」
女将の話を聞きながら、先に勘定を済ます彼女を見る。
見た目だけではなく本当に菩薩精神に溢れた人なのだ。
宮家だからではなく恐らく本人の気質だろう。
そしてご馳走さまを告げて店を後にした。
どこに向かうでもなくゆっくりと歩く。
「殿は民人に慕われているな。」
「今は仲良くさせてもらってますけどね、最初はそうもいかなかったのですよ。」