第5章 武士の初恋
は飛び出して行った来栖を心配し、考えた末に甲鉄城へ向かった。
カバネリは駿足だ。屋根をつたい、駅の端から端までも数分でたどり着く。
あの様子では確実に追いつけるだろうと思ったが、道中に姿は見えなかった。
違う道を通ったのだろうかと、引き返して町の中心を通る大きな街道へ向かった。
だが人が多くさすがに上から探すのは困難だ。
通りに下り立てばそれはそれで民人に声をかけられる始末。
「宮様!新作の絹ができましたよ!」
「雅な茶器が上がりましたよ、宮様にお似合いです。」
「ありがとうございます。後程、拝見させていただきますね。」
はそれとなく呼売商人をかわし、ただ一人来栖だけを探した。
だが先に目についたのは別の姿だった。
向こう側から歩いてくる体格の良い青年は弟によく似ているが少し違う。
「あぁ、吉備土様!」
が駆け寄ると吉備土もすぐ気がついたようだ。ただでさえ金色の髪は目立つ。そんな奴は身近にも鈴木しかいない。
「殿!どうしたのですか?そんなに慌てて…」
「あの、来栖様をお見かけではございませんか?具合が優れないようでしたので甲鉄城へお帰りになったのですが、私、やはり心配で追いかけてきました。でもお姿がどこにもありませんので途中で何かあったのではないでしょうか!!」
「まぁ落ち着いて、落ち着いて!」
早口で不安を述べるに戸惑うも、たった今見送ったばかりの来栖とすれ違わなかったことに疑問が残った。
だが彼が気を取り直して戻ったということを他人の口から告げてもいいものなのか。
吉備土が困り果てている時だった。
「殿!」
背後の声は裏返って緊張が感じられた。
吉備土はその木偶の坊と化した友の姿に笑いを堪える。
それはまた引き返してきた来栖だった。
振り向き安堵の表情を浮かべるとは逆に来栖はどんどん赤くなって固まっていく。
吉備土はもう堪えきれず肩で笑ってしまった。
長い付き合いだがここまで酷い姿は見たことがなかった。