第1章 平和の象徴
二人は人とカバネの狭間にある者。いわゆるカバネリと呼ばれる存在だ。
カバネと同じ血が半分流れるせいかやつらの存在には敏感だった。
「この線路、全然使われてないけどなんか嫌な感じしないね。」
嫌な感じとはカバネの気配だ。
周りの景色も鮮やかな緑がふんだんに塗りたくられていて異様な気配は微塵もない。
「でも油断はするなよ無名。どこから出てくるか分からないからな。」
「生駒に言われなくても分かってるよー。あーあ、早くお風呂入りたいな~。」
無名はつまらなそうに頭の後ろに手を組んだ。
横からみると唇が尖っていて、それがまた可愛らしい。
「もう随分入ってないもんな。」
「ほんと、生駒臭すぎ。」
「え!?そんなにおう?」
生駒は袖から裾からあらゆる箇所を嗅いで確かめる。
その姿を見ながら無名も面白がって片手で己の鼻をつまんで、もう片方の手で扇いだ。
だがそれもあるものが目に入りすぐ止める。
木々の間から少しずつ見えてくるそれは次の駅の外壁だった。
「みて生駒。」
「え?」
それはそれは高い壁に囲まれていて中の様子が全く見えない。
甲鉄蒸の警笛が鳴った。
やはりこれは駅だと再確認する。
さてここに人はいるのだろうか。
皆が緊張に包まれ合図を待つ。
すると遠くで小さくだが警笛が聞こえた。
無名は早々に嬉々として跳びはねた。
「やったー!お風呂っ!お風呂っ!」
だが生駒はまだ冷静だった。
警笛が返ってきたからといっても、この駅もカバネの被害にあっていれば物資の供給も儘ならないかもしれない。
この駅の人々が生活に苦しんでいれば、こちらは風呂に入る余裕もないかもしれない。
甲鉄城は駅の大門の前で停車した。
大門はゆっくりと開く。
これほど大きな門が他にあるだろうか。見上げれば視界のほとんどを占めるほど大きな門だった。